「森と鹿と人の未来のために」

(「里山グリーンネットワーク」HP寄稿文)

 

日本の豊かな気候風土のなかで、約100年前までは、ひとびとは里地里山の中山間地域において自然環境をいかした循環型の農業を営み、雑木林を管理して燃料を得ていました。しかしながらとくに戦後、生活スタイルや社会構造の変化などのさまざまな要因により、里地里山では経済的生産性だけでなく、生態学的にも環境保全機能が低下したとされています。

 

いま、自然や社会環境をよりよい形で未来へ継承するためにも、ひろく持続可能な仕組みづくりがもとめられており、里地里山はその実現の場として、さまざまな取り組みが始まっています。たとえば「里山グリーンネットワーク」が自然循環型農法を使って、安心安全な食料の生産を都市の住人が参加する仕組みを構築しているように、一部農村地域では、多くの人が安心安全な食と持続可能な自然環境づくりの関係を意識しながら活動しています。

 

いっぽう、現在急増している野生動物のシカは、生息地である奥山の森林を食害するだけでなく、里地里山にも進出して農業・生活環境にも被害を引き起こし、生物多様性の保全にも広範囲に好ましくない影響を及ぼすため、その頭数管理が社会課題となっています。しかし、本来シカは森の大切な資源として日本人が活用してきた自然の一部であり、暮らしにとけ込んだ文化の一部でもありました。シカは頭数管理のためだけに捕獲・廃棄せず、天然で滋養のある肉は利用するなど、ふたたび利活用の循環のサイクルのなかに取り込むことは、持続可能性の高い社会の実現につながるのではないでしょうか。

 

2015年5月26日の改正鳥獣保護法の施行日にあわせて、兵庫県では「ひょうごニホンジカ推進ネットワーク」が発足しました。シカに関わるさまざまな業種の事業者や団体が、力を合わせてその利活用に取り組もうとしています。いま、私たちがシカと生産性のあるつながりを創ることは、ひいては森をつくることにもなるでしょう。そして、未来へ残したい里地里山づくりへまた一歩を、歩みを推し進めるものでもあると考えています。